一個人の備忘録

メモのようなもの

『アンボス・ムンドス − ふたつの世界』

 

短編集。

『植林』

容姿に強いコンプレックスを持ち、冴えない毎日に鬱憤を抱えて生きる女の子が、ふと過去に自分が世間を騒がせたある大事件に関わっていたのではないかと思い至る、というお話。

冴えない女の子が、あることをきっかけに明るく生まれ変わって……、みたいな展開では決してない。ラストはある意味吹っ切れているのだが、そっちの吹っ切れ方か、みたいな感じ。『植林』というタイトルの意味が分かると恐ろしい。

 

『ルビー』

不況で仕事が見つからずホームレスになってしまった男が、家出して色んなところをフラフラ渡り歩いてた女と出会い、ホームレス仲間で彼女を共有しようという話になるのだが……、というお話。

別にそれほど深刻な内容ではないのだが、最後の救われなさみたいなものというか、突き放し方が印象に残る。ホームレスの生活がやけにリアル。

 

『怪物たちの夜会』

妻子ある男性と不倫を長年続けてきた女性が、感情のコントロールが利かなくなって相手の家に乗り込むお話。

これもなんだけど、最後の救われなさというか、あっけなさというか、すごい終わり方。不倫している女性の感情の動きがとにかくリアルに思える。本当は終わってるって分かっているのに引き返せない感じとか。

 

『愛ランド』

出版社に勤める主人公は、同僚の女性たちと女三人で上海に旅行する。旅先のマッサージで予定外に性的なサービスを受けて開放的な気分になった彼女たちは、それぞれの性体験を話し出すのだが……、というお話。

「愛ランド」と言いつつ特に愛はない。主人公の性体験が衝撃的なので、他の二人の話が霞む。

 

『浮島の森』

多感な時期に、別の作家と母親が再婚することになり、母と娘が結果的にセットで父親から別の男に譲り渡されることになった過去のある女性の物語。

一見どこにでもいるような普通の主婦の、内に秘めた激しさや業(陳腐な言い方だけど)が表現されているようで、読後に余韻が深く残った。

 

『毒童』

母親の再婚相手と共に実家の寺で暮らす27歳の女の話。母親から自分の父親は著名な大作家だと聞かされていて、義父とそりも悪く不満を持ちながら日々過ごしているのだが、ある日寺の片隅に住み着いたホームレスの親子の父親の方が、自分の子供には特殊な能力があり、泣きながらある言葉を口にすると、それを耳にした者を殺すことができるというのだった。

不思議な短編。現代版のダークな童話みたいな話。

 

『アンボス・ムンドス』

両方の世界、新旧二つの世界という意味のタイトル。同じ学校の教頭と不倫している女性教師が、夏休みにこっそり二人でキューバへ旅行するのだが、その間に生徒の一人が崖から落ちて亡くなるという事故が起こる。二人が不倫旅行していたことが世間にバレてしまい、非難の目にさらされて……、というお話。

人の持つ悪意というものの恐ろしさ、したたかさ、そして身勝手さがこれでもかと描かれていた。