一個人の備忘録

メモのようなもの

『錆びる心』

 

『虫卵の配列』

主人公の女性が、たまたま再会した旧い友人に自分の失恋の話をしたところ、その友人の恋愛の話を聞くことになるのだが……、というお話。

その友人の女性はある劇団にハマっていて、脚本家に手紙を熱心に書いているうちに、その内容が時々次の公演に使われるようになり、それが彼なりの愛情表現なのだと思っている。

最後の最後にそれか、みたいな終わり方。友人の内に秘めた狂気がやたら怖い。

 

『羊歯の庭』

地方都市の小さな書店を営む男が、ある日昔の恋人と再会する。現状に不満を抱きつつ暮らしていた男は、彼女が自分が欲しい物を全て叶えてくれる存在だと気づき、自らの家庭を顧みず彼女との暮らしを夢見るようになり……、というお話。

とにかく主人公の男にイライラする。欲しい物を自分の力で手に入れようとせず、他人任せ。そのくせそれまで共に暮らしてきた妻子をあっさりと捨ててしまおうとする無神経さ。最後の最後までは描かれていないが、たぶん酷い目に遭っていることだろう。

 

『ジェイソン』

男が友人と酒を飲んで帰った翌朝、妻が家を出ていたところから始まるお話。自分が酒乱だと気づいていなかった主人公が、徐々に周りの人から過去のエピソードを知らされていくという、ある意味非常に意地の悪い展開。そして最後の最後にこれか、という……。

 

『月下の楽園』

荒れ果てた庭に惹かれる主人公の男が、理想的な庭を持つ屋敷の離れを借りることになる。残念なことにその離れからは庭が見えないようになっていたのだが、離れの隅にたまたま防空壕の跡を見つけ、そこから母屋の庭に侵入することに成功する。男は夜な夜な庭に忍び込むのだが、ある時家の飼い犬に見つかってしまい……。

男が「死」や「退廃」に魅せられているところや、屋敷の女主人の過去やら、割と暗めの内容で、終始じめじめ感が漂う。

背筋凍る結末。

 

『ネオン』

小さな組を束ねるヤクザの組長が、ある時ヤクザに憧れを持つという若い男に出会う。自分の組に行き詰まりを感じていた組長は、その男の表情や目つきに何かの可能性を感じ、組の起爆剤にしようと、入れることを決める。そんな中、ある大きな仕事が組に舞い込み……。

ヤクザの日常がやけにリアル。最後あっけない感じの終わり方だが、何とも言い難い余韻が残る。

 

『錆びる心』

主人公の主婦は、過去に不倫がバレた時に夫からあることを言い渡されて、「10年後に家を出る」と固く決意していた。そしてついに10年が経ち、その日のために準備万端整えていた彼女は友人の家に逃げ出し、家政婦として住み込みで働ける家を探そうとするのだが……。

さすがに表題作だけあって、これが一番印象に残った。主人公は運良く自分が活かせる家で働くことが出来るのだが、そこで自身が気付いてなかった内面と向き合うことになる。その瞬間闇が一面に広がるようなイメージになり、その暗い余韻を残したまま物語は終わる。